the Kenosha 桃華月憚
アメリカの作家トマス・ピンチョンが1973年に発表した長編小説『重力の虹』における膨大な知識量を示す逸話として、
「the Kenosha Kid」なる存在が、新訳を手掛ける・佐藤良明氏により紹介されています。
ピンチョン研究家 Steven Weisenburger による『重力の虹』詳註(1988刊)
Gravity's Rainbow Companion: Sources and Contexts for Pynchon's Novelでは「謎」だった──つまりこの小説をめぐって何十本も博士論文が書かれていたのにだれにも「解明」できなかったのが the Kenosha Kid とは誰かということ。
上記の Companion の大幅増補改訂版(2006年刊行)
ではちゃんとソースが明かされています。
インターネットの時代に入れば、こういう知識で研究者が全滅ということはなくなるんですね。ケノーシャ・キッドとは Forbes Parkhill という作家による、Slothrop の子供時代(1920-30s)のパルプフィクションのヒーローなのでした。
The Kenosha Kid ― 『重力の虹』翻訳日記 (2012年12月14日閲覧)
インターネットすごい。
それとこれとは別の話ですが、『桃華月憚』同人制作の過程で、この作品における「謎」を解説するガイド(詳註)を作ってみようと思っています。
例えば9話のこのシーン。
まあ普通に見過ごすような本筋とは何ら関わりの無いシーンですが、女子生徒の「春彦く〜ん、今度、オグーラー方程式、教えてくださらない?」
というセリフは気になります。それで探してみたものの、そんな名前の方程式は無いし、というか当たり前なのではと。小倉だろこれ。
もっと探すと、そのうち本話の絵コンテ・演出が小倉宏文であることに気がつく。問題解決。
…などのチラ裏情報をかき集めています。これはスタッフの掌の上で踊らされている感が大変強いのですが、真琴の音楽用語が場面場面に適しているか?とか、
上津未原の全体像って何よ?など微細なネタから包括的な設定に及ぶまで取り上げていく予定です。
もうひとつ。六条章子が乗り回している、車について。
小林ゆうの叫び声ばかりが耳に残るのですが、これの車種については考えたことはなかったなと。とはいえ自分は全く詳しくないので、
どうしようかと迷っていたところ、妙に詳しい桃華月憚まとめ@ウィキに「エルドラード ビアリッツ1959」であるとの情報が。*1
信憑性は微妙ですが、確かに…似てなくも…ないような。これは更なる探求が必要です。
これが分かると何が良いのか。『桃華月憚』の時代設定が少し明らかになります。
たったこれだけの資料で、曖昧な推測となっていた時代考察の裏付けと成り得ます。それならこうしてかき集めるのも満更無意味でもないだろうと。
そんな訳で、来年の夏までに、仕上げられるだけ頑張ります。近況報告でした。
タイトルに『重力の虹』のパロを持ってきておいて申し訳ありませんが、本書は1/5まで読んで挫折しました。新訳で出直します。
*1:「キャデラックのコンバーチブル(エルドラード ビアリッツ1959?) ナンバーは「LOVE MAKO」 ヘルメットもある」 小ネタ ― 桃華月憚まとめ@ウィキ (2012年12月14日閲覧)